ペンローズタイルとは(その2)
「ペンローズタイルとは(その1)」という記事で、ペンローズタイルの特徴、「P1,P2,P3」の3種類があること、「P1」について、「強非周期充填」「マッチングルール」「膨張収縮」「MLD」などの概念について、ざっと説明をし、最後に「P1」から「P2」を導出する方法を示した。
その続きで、「P2」「P3」についてなど説明していく。
・ペンローズタイル P2(カイトとダート)
「P2(カイトとダート)」は、1974年ごろイギリスの物理学者ロジャー・ペンローズが考案した、図示の2種類のタイルによる「強非周期充填」である。
「カイト(凧)とダート(矢)」という呼び名は、同じくイギリスの数学者(1984年にアメリカに移住)ジョン・ホートン・コンウェイが名付けたものらしい。コンウェイは「Game of Life」という計算モデルの発明で有名な数学者で、「ペンローズタイル」についても研究してその特徴の多くを発見している。1976年にアメリカのコラムニスト、マーティン・ガードナーがコンウェイから「ペンローズタイル」の情報を聞き取り、翌年、サイエンティフィックアメリカンという雑誌のコラムで紹介した。そこでは主に「P2(カイトとダート)」について解説されている。
図に示した円弧によるマッチングルール表記もコンウェイが考案したものらしいのだが、これが非常に巧妙で美しい。(次の図も参照)
このマッチングルールのライン(円弧)は、各辺を「1:φ」に内分(黄金分割)する点で(円弧の接線が辺と)直交するように描かれており、緑の円弧と桃色の円弧はちょうど接している。この円弧の半径の比もまた黄金比になっている。(φ^-2:φ^-1 = φ^-1:1=1:φ)
上図の下側には、カイトとダートの形状(寸法や角度)を示している。角度はすべて36°の倍数。辺の長さは2種類あり、短辺を「1」とすると、長辺は「φ(黄金比)」となっている。カイトの幅を「β」と表記しているが、これは組木屋独自に置いた記号で「K3短長比」と呼んでいる。(「β(K3短長比)」についての詳しい説明は、またいつか別の記事で書こうと思っているが、この記号を使うと、正五角形に関するいろいろな寸法を「ルート」を使わずにすっきりと表せて便利。)
「マッチングルール」の表記方法は他にもいろいろある。
左上の図(ライン表記その1)がコンウェイが考案したというもので、その右側(ライン表記その2)は組木屋で考案したもの。これ(その2)もすべて円弧が辺と直交するようになっている。円弧の半径がなんかややこしい値になっているように思われるかもしれないが、こうすると「P2→P3」変換をしたときに綺麗に、共通したマッチングルールとして表せる。
「マッチングルール」の表し方に関しては、「組木屋たいる K3」を検討しているときにいろいろと考えたので、また別の記事でもう少し詳しく説明しようかと思う。
・「P2」の φ倍膨張・1/φ倍収縮 置換ルール
「ペンローズタイル P1」のところでも説明したが、「P2」も同様に「膨張・収縮(細分割)」という操作をして、サイズの違うタイルに「置換」することができる。
上図で、黒線のタイルのサイズを基準として考えると、青線のタイルのサイズはφ倍になっている。ここでは基準サイズの「ダート」を対角線で分割したと考えて、黒線「サイズ1」のタイルを並べて青線「サイズφ」のタイルを得る操作を「膨張」、逆に、青線のタイルの内部を黒線のタイルに細かく分割する操作を「収縮(細分割)」という。
これで、「1:φ」の「置換ルール」を示したことになるが、この操作は無限に繰り返すことができるので、一般的に「1:φのS乗(Sは整数)」の置換が可能であることが分かる。Sが正の整数の場合は「膨張」、Sをゼロとした場合は「恒等変換(なんにも変わらない変換)」、Sが負の整数の場合は「収縮」を表す。
(この『「1:φのS乗(Sは整数)」の置換が可能』という性質が、上記の説明だけでは分かりにくいかもしれないが、とても面白いので、またいつか別の記事でもう少し丁寧に説明しようと思う。)
・「P2」の7種類の可能な頂点図形とその置換関係
「P2」において、マッチングルールを守りながらタイルを並べていく場合、タイルの頂点が接する方法は、上図の赤丸で示した7種類のみとなる。これらの図形はそれぞれ「エース・デュース・ジャック・クイーン・キング・サン・スター」と呼ばれている。
「エース」のことは別名「愚者の凧」ともいうが、それは何故かというと、上の図の「エース」ともう一個前の図の「カイト(凧)」とを見比べてみると分かる。内部の構成が違う。「エース」はたまたま「カイト」をφ倍したサイズで同じ形をしているが、「φ倍膨張した本当のカイト」とは別物だよ、混同したらダメだよ、という意味である。
上記7種類の頂点図形を「1/φ倍収縮」する操作を繰り返すと、「エース」は「ジャック」に、「ジャック」は「キング」に、「キング」は「サン」に、そして、「デュース」は「クイーン」に、「クイーン」は「サン」に、それぞれ置き換わる。「サン」にまでなったらあとは「サン」→「スター」→「サン」→「スター」・・・と永遠に繰り返すことになる。(上図緑色の矢印の関係)(これまた非常に面白い性質だと思うが、もうちょっと丁寧に説明しないと伝わらないかもしれない。)
「サン」と「スター」と「エース」に描き込んである青縁の丸は、それぞれ「表」「裏」「輪」と組木屋で呼んでいる充填形の中心を表している。
・3種類の充填形「表」と「裏」と「輪」
ペンローズタイルP2の「充填形」には、「無限の太陽」「無限の星」「無限の車輪」と呼ばれる3種類が知られている。組木屋ではこれらをそれぞれ「表」「裏」「輪」と呼ぶことにした。
すでに呼び名があるのになぜわざわざ違う呼び名にするのか、というと、当初ペンローズタイルに関する知識がほとんど無いころに、「組木屋たいる K3」というタイリングを考案して、充填形とか置換とかを検討していたときに「表」と「裏」という呼び名をつけてしまったから、というのが一つ。(「輪」という名前は「無限の車輪」を知ってから、それに倣ってつけました。)
あとから「無限の太陽」とかの呼び名を知ったのだが、「P2」に限らず、ペンローズタイルの仲間たちはすべて互いに変換できるので、「太陽」とか「星」と呼ぶより、「表」と「裏」と呼んだ方がより一般的かな、と思ったので、そのまま使うことにした。
ペンローズタイルの仲間(「MLDクラス=ペンローズ」といった呼び方をされる。)の充填形は、もっといろいろあるようにも思われそうだが、本質的にはこの3種類に集約されると考えている。(これらの3種類の充填形について、詳しくはまた別の記事を書こうと思う。)
・P2からP3への変換ルール
上図に「ペンローズタイルP2」から「P3」を導出する方法のひとつを示す。
図の左側のように「P2」のプロトタイルセットに赤線を描き込んで平面充填を行うと、右図の赤線で示される「P3(シンとファット)」の充填形が得られる。
導出・変換する方法は、タイルのサイズによっていろいろある。また、反対に「P3」から「P2」への変換も可能。
ということで、次は「ペンローズタイル P3(シンとファット)」について説明をしていこうと思ったが、長くなってきたので、また別の記事として書くこととします。
参考文献・URL
・英語版ウィキペディア「Penrose tiling」
・英語版ウィキペディア「List of aperiodic sets of tiles」
・マーチン・ガードナー著「別冊日経サイエンス マーチン・ガードナーの数学ゲームⅢ[新装版]」
・谷岡一郎著「エッシャーとペンローズ・タイル」
など
関連記事
・「組木屋たいる」のまとめページ
・周期充填と非周期充填と強非周期充填
・マッチングルールとは
・膨張と収縮(細分割)と置換ルール
・MLDと変換ルール
・3種類の充填形「表」と「裏」と「輪」
・置換および変換のサイズ「S」と「世代」
などを順次書いていくつもり。
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