ペンローズの三角形組木
今回は、Nobuさんデザインの「ペンローズの三角形組木」という作品を紹介いたします。
ペンローズの三角形組木とは
同じ形の3つのピースを組み合わせるパズル的な作品ですが、ペンダントトップとして使用していただくことを想定して制作しています。
3つのピースを組み合わせたときの平面形が、「ペンローズの三角形」※1として知られる「不可能図形」※2になります。(※1,2:に関しては、下の方でそれぞれ少しだけ組木屋なりに解説します。)
ただし、組木屋の「ペンローズの三角形組木」※3は、「有名な不可能図形をうまいこと立体にしてやろう」という意図で考案したものではなく、「三つ巴となるような組木パズルを考えていたら、たまたまペンローズの三角形のデザインになった。」(Nobuさん談)というものです。
なので、初めは単に「組木パズル」のつもりで試作品を作ったのですが、小さいものを作ったら、ペンダントトップとしてもなかなかカッコいいのではないかと思い、頑張って銘木で作ってみました。けっこう精度がよくないと、パズルとして面白くならないのですが、まあまあ許容範囲かなと思えるものができたので、良しとします。
※3:組木屋で制作した作品の名前としては、以下「三角形組木」と略して呼びます。
三角形組木の面白いところ
パズル的な作品なので、あんまり説明しないほうがよいかと思いますが。でも、組んだ状況の写真だけでは、この作品の面白さは伝わらないと思うので、しかたがありません。「パズルの答えは絶対自分で考えたい」という方には申し訳ありませんが、途中まで動かした状況と分解した状況の写真も載せてしまいます。
写真右は、いったん3ピースをばらして、2ピースだけ途中まで組んだ状況。これにあと1ピースをはめようと思うと、パズルとしては、結構不可能っぽくないでしょうか。
各ピースは、三角形のリングのような形になりますが、1か所にちょっとだけ隙間があります。この隙間は、めっちゃ精度よくピン角で作れば、ほぼゼロにすることができるのですが、実際には、そこそこの精度ですし若干の面取りもしているので、ゼロにはなりません。(それでも、1mm以下ぐらいにはなるようにしようと頑張っています。)
三角形組木の動き方
さらに、実際に動かしているところの動画も載せてしまいましょう。
なによりもこの動きが面白い。そこそこ精度良く、滑らかに作れたら、かなり気持ち良い動きをしてくれました。(※個人的な感想です。作品ごとに個体差もあります。)
三角形組木の組み方
さらに、三角形組木を実際に組んでいるところの動画も載せておきます。
いちおうパズルの答えを示していることになるので、見たくない、自力で解決したい、という方はご注意ください。
三角形組木の形状とサイズと色
3つのピースを組んだ平面形状は、前述のとおり「ペンローズの三角形」の形なのですが、それぞれのピースの形状としては、数字の「7」を2つ背中合わせにくっつけたような形です。「7の裏」側が見えるようにくっつけた場合は、全体的に鏡映対称となります。
「7」の線幅と高さの比率などを変えることで、プロポーションの違う作品になります。MDFで作った試作品では、線幅:高さ=1:7で作ったのですが、ペンダントとしては1:6ぐらいがカッコいいかな、と判断しました。厚さもいろいろ変えられますが、制作しやすい厚さ(だいたい5mmぐらい)で作っています。
サイズは3種類作ってみたのですが、ペンダントトップとしては「中」と「小」のどちらも良い感じかなと思っているので、お好みで。「中」だとなかなか存在感があります。「小」が気軽に使いやすいサイズかなと思います。(これより小さいサイズは制作が困難になってくるので作りません。子供に組木パズルとして遊んでもらうなら、試作品の「大」サイズぐらいがよいのかもしれませんが、手作りをしていたら、けっこうなお値段になってしまうので、これも組木屋で制作販売するつもりはありません。)
色(樹種)の組み合わせ方もいろいろ考えられるのですが、「白・赤茶・黒」ぐらいの3色がカッコいいかな、と思っています。写真の左は黒(ウォルナット)1色、中央は白(シカモア)と赤茶(パドウク)の2色、右は白・赤茶・黒の3色で制作したもの。1色で作るより3色で作る方が、だいぶん難しくなったり面倒くさかったりしますが。
ペンダントトップとしての使い方いろいろ
3つのリング(のようなもの)を組み合わせた作品なので、その組み合わせ方と、どこをどうやって紐でくくるかによって、いろいろなデザインを楽しんでいただけるかと思います。
ピースの隙間より十分に太くてつぶれない紐を通していただければ、使用中にばらけて落っこちるようなことはないと思います。
以下、組木屋で試してみたものを、いくつかご紹介します。
(写真は「小」サイズで試したものです。樹種は、白:メイプル、赤茶:パオロッサ、黒:シマコクタン)
2ピース、あるいは1ピースだけでも、いろいろな使い方ができます。
すべて、紐をほどかなくても(輪っかの状態のままで)できるくくり方をしています。(このくくり方を考えるのもけっこうパズルっぽい感じです。)
その他にも、手にされた方にいろいろ試して楽しんでいただけましたら幸いです。
三角形組木のパズル問題
3つのピースを組んで外すところは、写真と動画とでほぼ答えを明かしてしまったので、別のパズル問題を一つ。
「白・赤茶・黒」の順に、くさり状に繋がっている状態(写真左)から、ピースを外すことなしに、並び順を入れ替える(写真右)ことはできるでしょうか?
答えは、「そのプロポーションによって、できる場合とできない場合とがある」ということになりそうでした。(試作品のサイズでは、問題なくできる。中サイズは、ギリできる。小サイズは、ギリできない。という結果。)
三角形組木から派生した作品たち
①6つ重ね合わせたパズル(Nobuさんデザイン)
12ピースのパズルになります。MDFで試作、油性マーカーで着色しました。けっこう苦労して作ったのですが、残念ながら(精度が悪いせいもあり)期待していたほど気持ち良い動きはしてくれませんでした。
②トリコローズ(枝葉さんデザイン)
薔薇(ローズ)っぽくしてくれ、ということで試作してみました。もう「ペンローズの三角形」とは無関係なデザインになりますが、パズル的には「三角形組木」と同じ原理です。これも銘木で作ったら、アクセサリーとしてなかなか素敵なのではないかと思っています。
③V2シリーズの組み積み木(はるのさんデザイン)
「三角形組木」をもっとシンプルにして「組み積み木」として遊べるようにデザインしたもの。とりあえず3種類。「V2シリーズ」としては、他にも作品があるのですが、またいつか改めて紹介記事を書きたいと思っています。
④多角形組木シリーズ(Nobuさんデザイン)
「三角形組木」から、四角形・五角形・六角形と拡張したシリーズ。他にも、動きが面白くなるように改変した作品などがあります。「多角形組木シリーズ」は、まだアイデアだけがあって試作もしていないものもあるので、ある程度、落ち着いたところでまたいつか改めて紹介記事を書きたいと思っています。
※1 ペンローズの三角形とは
四角柱が3本それぞれ直角に配置されているように見えるが、「よく考えると、それって立体的にはありえないよね」と思われるような不可能図形。
1934年に、スウェーデンの芸術家オスカー・ロイテスバルトが、立方体を連続して三角形に配置した不可能図形を制作しました。スウェーデンでは切手の図案としても採用され、1980年に発行されています。(左図※)
それとは独立して、1956年に、イギリスの数学者ロジャー・ペンローズと精神科医の父ライオネル・ペンローズによって「不可能性の最も純粋な形」として考案し論文投稿され、1958年に掲載されました。その論文に示されたものは、四角柱を3本くっつけたような不可能図形。(中央図※)
今では、四角柱が連続して(接続線なしで)直角に折れ曲がったようなデザインがあちこちで見られ、ウィキペディアなどにもパブリックドメインの画像が掲載されています。(右図※)
※以上に挙げた図は、すべて出処がはっきりしているので、引用させていただきました。
どれも、不可能性の原理としては同じもの。
ロイテスバルトさんが一番早く制作したようなのですが、ペンローズさんの方がより有名だったためか、呼び方としては「ペンローズの三角形」で定着したようです。
※2 不可能図形とは
平面的には表現可能だが、それを立体にすることが不可能と思われるような不思議な図形のことを、「不可能図形」といいます。
「ペンローズの三角形」の他にもいろいろあり、錯視図形やだまし絵の仲間として紹介されていることがよくあります。
ロイテスバルトさんは、意図的に不可能図形を多く作品にした最初の人であり、「不可能図形の父」とも呼ばれているらしいです。その他に、不可能図形をモチーフにした芸術家として、M.C.エッシャーが特に有名かと思います。エッシャーさんとペンローズさんとは親交があり、お互いに影響を受けていたとか。
不可能図形と呼ばれるものたちは、「平面図から立体を想像できる人にだけ、その不思議さが理解できる」というのが、面白いところだと考えています。
それらの図形が不可能に思える理由は、「実は、見る人の思い込みによるものである」というのが私なりの解釈です。その「思い込み」の主なものとしては、
①各面(各辺)は、平面(直線)だろう、という思い込み
②各面(各辺)は、直角に交わっているだろう、という思い込み
③同じ色に見える部分は、同一平面だろう、という思い込み
④一部分だけを見て、奥行を勝手に想像してしまう思い込み
⑤一部分だけを見て、「図」と「地」を勝手に判断する思い込み
これらの思い込みのどれか一つ、あるいはいくつかを裏切ってあげれば、たいていのものが立体的にも実現可能になります。(ただし、不可能図形に見えるための視点は固定されます。また、「影」と「陰」をうまいこと処理しないと、すぐに仕組みがばれてしまいますが。)
不可能図形を立体的に実現したものは「不可能立体」と呼ばれることがあります。
『ウィキペディア(Wikipedia)』で『不可能図形』を調べると、冒頭で「不可能図形 (impossible figure) または不可能物体 (impossible object)」という表記がされており、さらに文中では「不可能立体」も同じような意味で混用されているようでした。
がしかし、「不可能図形」「不可能立体」「不可能物体」は、それぞれ別物として分けた方がよいのではないかと思っています。(英語では分かりませんが、少なくとも日本語としては。)
不可能図形:平面的には表現可能だが、立体にすることが不可能に思われる図形
不可能立体:実在しているのに、ある視点から見ると、現実にありえないように思われる立体
不可能物体:実在しているのに、制作することが不可能に思われる物体
というのが、私の個人的な認識です。
私が考えるところの「不可能図形」「不可能立体」「不可能物体」については、またいつか、もう少し詳しい記事を書きたいと思っています。
三角形組木の著作権について
「ペンローズの三角形」の平面図形に関しては、ロイテスバルトさんとペンローズさんと それぞれ両方に著作権があると考えられます。ウィキペディアに掲載されている図形に関しては、パブリックドメインとなっていました。
「ペンローズの三角形」を「不可能立体」として実現する方法は、いくつかあるのですが、それぞれ最初に創作した方に著作権があると考えられます。ですが、誰が最初なのか、誰が著作権を有しているのか、よくわからない状態だったので、ここで不用意に紹介はしないでおきます。
組木屋の「三角形組木」の平面形は、ウィキペディアのものに一番近いのですが、実際には3次元の組木パズルとして創作しているので、また別の著作権が生じていると考えます。(なので、組木屋の「三角形組木」およびそれから派生して作った作品に関しては、許可なく真似しないでね、ということを主張しておきます。)
三角形組木の販売について
【2024年4月 動きと組み方の動画を追加】