デザートアイアンウッド
銘木図鑑の第13回。今回は知る人ぞ知る高級材「デザートアイアンウッド」の紹介。
「永い年月によって生まれた、ほとんど化石みたいな超硬質・超高級木材」
【別名】砂漠鉄木(さばくてつぼく)
【科目】マメ科 オルネイア属 広葉樹
【組木屋作品】メビウスの指輪、など
【評価】アメリカのアリゾナ州からメキシコ北部にかけてのソノラ砂漠に埋もれていた、もしくは立ったまんま石化しかけたようなマメ科の木、ということらしい。
デザートアイアンウッドという呼び名は、”Olneya tesota”という一種を指すことが多いようだが、特定のものだけではなく総称的に使われることもあるようで、個体差が大きい。(写真左の黄色っぽい材は、デザートアイアンウッドのバール材として入手したものですが、色合いがかなり違って、比重も若干小さそうだったので、ひょっとしたら別種かも。)
天然の木材としては、スネークウッドと並んで最も高価な材の一つ。これより高価なものは、人工的に手を加えたスタビライズドウッド(元々高価な杢材をさらに加工している場合が多い。)やインド産の白檀(木材としてではなく香木として取引される。香木では、沈香、伽羅などさらに桁違いに高価なものがある。)、幻の銘木である青黒檀(割れが多すぎて、単純に値段を比較できない)など、例外的なものしかないと思われます。
組木屋評価としては、9.4点。(加工中の変な臭いのため、クラフターさんがー0.2ポイントしました。)
【色・匂・味】色も木目も個体差が大きい。黒に近いくらい濃い茶色からかなり薄い茶色までで、いろいろな木目が見られる。同じ埋もれ木といっても神代とはかなり感じが違う。(神代(じんだい)というのも長年、地中や沼などに埋まっていて黒っぽく変色、変質した材のことを指す。)
加工時、熱が加わるとけっこう不快な臭いがする。捨てられていた革靴みたいな、鰹節と煮干しにほんのり納豆を添加したような、ちょっと鼻を刺すような、へんな臭い。(初めはかなり不快に感じたが、慣れてくるとちょっと癖になるかも。)ただし、におうのは加工時のみで、時間がたったらほとんど感じなくなるので、ご安心を。
木屑を舐めてみるのがちょっとためらわれたが、意外と味はまったくしなかった。
【加工性】とにかく硬い。木工用の工具で加工するには、もう限界すれすれ、という感じ。切断時の音がもうなんか違う。ただ、もっとダントツで硬いかと想像していたが、そこまでではない。最近加工したものでは、マグロ(カメルーンエボニー)、アフリカンブラックウッドなんかはほぼ同等の硬さだと感じた。もちろんそれぞれに個体差があるとは思うが。
切りはじめの木屑はカサカサした感じで、油分が少ないのかと思ったが、かなり熱を加えてしまうと、(ドリルの刃とかの)目に詰まって取れないような木屑に変化する。(ブラシぐらいでは硬くて取れない。爪でこじり取る。爪が割れる。)樹脂の融点が比較的高いのかな、と感じた。
角が若干欠けやすい。逆目でゴリゴリと引っかかりを感じるので、繊維の強さは残っているのか、と思ったら、繊維方向による硬さの差(ビットで削れる速さの違い)としてはとても少なく、1.2倍以下。不思議な感覚。
硬いのは大変だけど、異方性が少ないので、加工難度としてはマックス10ではなく9とした。
【仕上】加工中の粗い状態だと、見た目も手触りもガサガサした感じで、あまり綺麗になるとは思えなかったのだが、細目の番手まで丁寧に磨くと、その印象がガラリと変わる。
道管が見えない。色合いが深くなる。強い光沢がでる。見る角度で色合いが変わって見える(底光する感じ)。なるほど、こだわりの高級材、という感じ。塗装してしまうのはもったいないので、しません。
ただし綺麗に仕上げるのは結構難しい。かなり磨いてから細かな傷に気が付いたり。意図せずに、ものすごく細かい”浮造り仕上げ”みたいに、木目に沿って凸凹になってしまうこともある。
ビーズ(無塗装)を少しづつ回して撮った写真、見る角度、光の当たる角度によって見え方が違う、というのを伝えたかったのですが、この写真じゃよく分からないですね。(ピントも甘くて下手くそなため...)
左は普通のデジカメで出来るだけ寄って撮った写真。これが肉眼での見え方に近いかと。真ん中と右のは、デジタルマイクロスコープでさらに寄って撮った写真。ここまで寄ってもどこが道管なのかよくわかりません。濃い茶色の筋が元々は道管だった部分なのかもですが、孔(あな)として空いているものは見あたりません。ぜんぶ樹脂が詰まっているのかな。
指輪も無塗装、研磨のみの仕上げです。
【その他】ほとんどの材が、ナイフグリップやペンブランク用としての小さいサイズで販売されていて、加工も超大変なので、趣味のための高級材、こだわりの逸品みたいな感じ。