木目(もくめ)と木理(もくり)と杢(もく)
今回は、木工用語のうち、木目(もくめ)と木理(もくり)と杢(もく)と、その周辺の用語と、それらの違いなどについて、説明を試みます。
木目も木理も、広義には「木材の表面に現れる模様」ぐらいの同じ意味で使われる言葉で、違いはありません。実際、国語辞典などでは同義語としてあつかわれていることが多いよう。杢(もく)も同じように木の模様を表す言葉ですが、その模様が特に希少かつ魅力的で、材のお値段が高くなるようなものが「○○杢」といった呼び方をされます。
おおざっぱにいうと同義語である木目と木理ですが、狭義に使われる場合は多少ニュアンスが違ってきます。
①まず木目という言葉は、木の年輪(ねんりん。成長輪ともいう)による模様を指すことが多いです。
年輪というのは、木を輪切りにしたときに同心円っぽく一年の成長毎に一本現れる、あれです。春ごろに早く成長した部分(早材・春材などと呼ばれる)と、ゆっくり成長した部分(晩材・夏材などと呼ばれる)の違いによって縞々模様ができます。なので、日本のように四季がはっきりした地域では、この年輪もはっきりした材が多くなります。この年輪による同心円状の縞々を面で切断することによって、柾目(まさめ)や板目(いため)といった木目模様が現れるわけです。
②それに対して木理という言葉は、繊維方向の変化によって現れる模様を指すことが多いです。
木の細胞繊維は、おおむね幹の軸方向と平行に細長く成長していくのですが、けっこうそうじゃないもの、複雑に入り組んだものなどもあります。素直にほぼ平行なものを通直木理と呼び、そうでないものを総称して交走木理と呼びます。交走木理は繊維方向の違いによりさらに、らせん木理・交錯木理・波状木理・斜走木理、などに細分化されます。
繊維方向が違うと光を反射する程度が違ってくるので、平滑な面に仕上げても、”しましま”や”うにゃうにゃ”な模様が見えたりします。また光を当てる角度を変えると、模様も動いているみたいに見えたりします。
③さらに木の模様を形作る大きな要因として、(年輪とは無関係な)色の変化もあります。
典型的なものとしては、黒柿やブラックアンドホワイトエボニーなんかの黒と白の色の違いなど。色が不規則に変化する原因はあまりはっきりとは分かっていないようなのですが、樹種毎の抽出成分の分布だったり、菌類の影響で色が変化したりすることがあるらしいです。これら色の変化による模様を表す一般的な用語は無いので、ただ単に縞模様とか不規則な模様とか呼ばれたり、広義の木目に含めたり、テキトウな感じです。特にカッコいい模様だと杢として、孔雀杢、縞杢、スポルテッド、などと呼ばれたりしますが。
④木が成長する層が不規則にデコボコしていた場合、それをまっすぐな面で切断すると、これまた面白い模様が出たりします。これの典型的なのが、瘤(こぶ)の部分で、英語ではバールと呼ばれます。
⑤また、木の仕上げ面が、粗いか細かいか、年輪幅が広いか狭いか、早材と晩材の移行が急か緩やかか、道管が大きいか小さいか、といったことを表す用語として、はだ目・木肌、といった言葉も使われます。
以上の①~⑤による模様の変化を全部ひっくるめて、そのなかで希少でカッコよいものが杢と呼ばれてお値段も高くなるわけです。
杢の呼び名はとにかくいろいろありますが、模様の形成要因毎にざっと挙げると
①笹杢、筍杢、
②縮み杢(カーリー)、虎杢(縮み杢よりちょっと粗くて不規則な感じのもの)、リボン杢、波状紋(リップルマーク)、虎斑(虎杢とは別で放射組織に起因する模様)、銀杢、
③孔雀杢、縞杢、スポルテッド、ブルーステイン、
④瘤杢(バール)、泡杢(キルテッド)、玉杢、鳥眼杢(バーズアイ)、
⑤糠目、
など、など。ただしこれらの名称は主観的・感覚的で、曖昧なものなので、同じ模様を見てもその呼び名は人によってバラつきがあったりします。(要因①~⑤と杢の呼び名との対応も不精確かもしれません。)
以上、とりあえず言葉だけで説明してみました。
そのうち、説明の図や、組木屋で入手した材の写真とかを追加して、もうすこし具体的に分かりやすくできたらと思います。
木工に限らず、専門用語を説明しようとすると、さらにたくさん説明が必要な用語が出てきて、収拾がつかなくなる、という難しさがありますね。。。
2020年4月に、「いろいろな杢(もく)」という記事を書きました。
組木屋で入手した材のなかでカッコイイ杢のものを、写真・解説付きで紹介しています。