ナツメ(棗)
銘木図鑑の第10回。今回は、フルーツがなる木、「ナツメ(棗)」という材を紹介します。
「ほとんど流通しない希少材ですが、ちっちゃい小物を作るには魅力的」
【同名異義語】普通ナツメといったら材種ではなく、その実のことを指すことが多いと思います。また、茶器として使われる小さな容器が、ナツメの実の形に似ていることから棗(なつめ)と呼ばれます。
【科目】クロウメモドキ科 ナツメ属 広葉樹
【組木屋作品】メビウスの指輪、猫のキーホルダー
【評価】ナツメは、その果実がお菓子として食用にされたり、生薬とされたりもするが、木材として流通することは、とても稀。
元々小さな材しか取れない上、割れが多くて、製材されたものでも、実際に使える部分は半分以下ということもあるぐらいなので(非常に歩留まりが悪い)、木材として使用されることが少ない。需要も供給も少ないので、材としての値段はその時々でバラバラな感じ。
「ピンクアイボリー」と同じクロウメモドキ科で(属は違うけど)性質が似ている部分がある。木肌がとても綺麗になるので、小物のなかでも特にちっちゃいものを作るのに限れば、魅力的な材です。
食べられる実がなるフルーツの木、全般的にいえることとして(例外はあるが)、材としての流通は少ないが、木肌が密で綺麗に仕上がるものが多い。
一般的には、そこまで高く評価される材ではない(そもそも”材”として評価されることがほとんどない)のですが、組木屋では、小さいものしか作らない、と割り切って、9.0点の高得点にしました。
【色・匂・味】心材と白太の色の違いが明瞭。心材は、ややオレンジがかった茶色で、キャラメルみたいな色。白太は、やや黄色がかった肌色。
普段匂いは特にしないが、焦がすと香ばしくてやや甘い匂い。
味は特にしない。
【加工性】非常に割れが多い材なので、木取りからして難しい。そしてとんでもなく焦げやすい。今までに加工した材の中でダントツの一番。(ピンクアイボリーも焦げやすかったが、ここまでではない。)特に心材部分の焦げやすさがひどい。バンドソーではそれほど焦げやすいわけでもないのに、丸鋸(チップソー)では、びっくりするぐらい真っ黒に焦げてしまった。
チップソーで切断したら、材の側面(木口および木端)が、びっくりするくらい真っ黒に焦げてしまった、という写真。
ルータービットでのおおまかな切削作業では、適度な硬さで加工しやすく感じたが、糸鋸盤(アサリ無しの刃)ではかなり硬く感じて、さらに焦げやすいため綺麗に加工することが困難。ドリルの穴あけも結構硬く困難に感じる。でも、アサリ有りの鋸では、それほど硬くは感じないし、特別に焦げやすくもない(それでも多少は焦げることもあるんだけど)。
加工方法によって難易度(感じる硬さ)が大きく違う。おそらく、刃の側面で擦れるような加工(チップソーやアサリ無しの糸鋸刃など)だと、抵抗が大きく、また熱が溜まって焦げやすい、という性質なんだと思われる。
また、部位、個体差によっても加工難度が大きく違う。白太ありで、杢(繊維のうねり)があるような材で、指輪(手仕事で精度を出す作品)を作ったときの評価は、難易度マックスの10。心材のみの素直な部分で作る場合、あるいはそれほど高い精度を要求しない場合は、加工難度7ぐらいで良いかと。
白太部分は心材よりおおむね2倍以上柔らかいのだが、ムラが大きく、部位によって(心材白太の境目辺りや、繊維がうねっている部分などで)極一部分だけ心材よりも硬いんじゃないか、という場所があり、手仕事で細かな精度を出すのが非常に困難。繊維がうねるような杢があると、硬さのムラの複雑さは、リグナムバイタよりも上をいくのではないか、というくらい加工が超困難になる。
繊維方向の差は、素直な部分では1.5倍程度と少ない。それなのに、すぐ横で10倍くらい硬さ(ビットで削る速さ)が違う部分があったりする。(繊維方向がうねっていると考えるだけでは説明がつかないほどの大きな違い。)どこが硬いかは削ってみないとわからない。
【仕上】ヤスリがよく利いて、微妙な模様が綺麗に現れてくるのが、非常に気持ち良い。木屑はとても細かく、さらっさらになる。磨くとかなりの光沢が出る。
粗削りのときと比べて見た目が顕著に変わっていくのが楽しいのだが、かなり磨いた後で初めて小さな凹凸やキズが目立ってくる、という難しさも。
縮み杢のような繊維のうねりがある部分では、削られる量の差が大きいため、形状を歪めずに仕上げるのが困難。歪みを確認しながら、硬い部分だけピンポイントで磨く(削る)、ということをしないといけないので。
道管は肉眼ではほとんど見えないほどで、木肌が美しい。年輪もほとんど見えないが、微かに模様がはいっており、磨くことでよく見えてくる。広い範囲に杢(繊維のうねりによる模様)がでることはほとんどないようだが、部分的に縮み杢のようなうねりがあることがある。これも粗削りの状態ではわかりにくいが、光沢が出るくらいまで磨くと見えてくる。
普通のデジカメ+標準ズームレンズで8cmぐらいまで近寄ってとった写真。これが肉眼で見た感じに近いかと。
デジタルマイクロスコープを入手したので、アップで撮ってみました。3cmぐらいまで寄った写真。左側の白太の部分に薄っすらと縞模様が見えるのは、繊維のうねり。こんなのが連続して広範囲に現れると「縮み杢」と呼ばれる。
1cmぐらいまで寄って撮った写真。下にある目盛の間隔は1mm。ここまで寄ると、道管もはっきりと見えてきます。道管の孔(あな)が散らばっていて(散孔材という)、しかも小さい(およそ0.05mm)ので、肉眼では木肌が均一で綺麗に見える。
【その他】ナツメで作った木工作品がなんかないかなぁと、ネットでいろいろ見ていたら、一枚板のテーブル天板で「ナツメ」と表記されているものがありました。(そんな大きな材がほんとにあるのか?)ですが、木目がはっきりしていて色合いもだいぶ違うので、たぶん別種だと思うけど、よくわかりません。コップやお椀で、「ナツメ」と称しているものもあったが、「ケヤキと似た木目」とか書かれており(ケヤキは環孔材で年輪がはっきりしている)、これはさすがに違う樹種だろうと思われますが、どうなんだろう。
木目のはっきりした材で、「ナツメ」と呼ばれるものが別にあるのでしょうか?
「ナツメヤシ」は、実の形が似ているというだけでその名が付いたようだが、まったく別種。
お茶の葉をいれる茶道具で「棗(ナツメ)」と呼ばれるものがあるが、ナツメの木で作られているわけではない。形がナツメの実と似ているため、そう呼ばれるようになったようです。