黒檀・エボニーってなんだ?
銘木図鑑の第8回。今回は特定の樹種ではなく、「黒檀(コクタン)」「エボニー」と呼ばれる仲間たちについての説明を試みます。
「黒檀とは三大唐木の一つ。その呼び名は、実は曖昧で複雑。」
むかーしむかし、私がまだ学生だった頃、とある雑貨屋さんで「黒檀」という真っ黒な材が売られていたのに出会いました。その木とは思えないような質感に一目惚れし、何に使うか全くあてもないのに購入してしまったのが、今思えば銘木好きになるきっかけだったと思います。
私自身、そのころは「黒檀という真っ黒な木があって、それを英語でエボニーという」ぐらいに思っていました。
それから長い月日がたち、いろいろな材で木工をしだしてから、黒檀にもいろいろなものがある、ということを知ります。ちょっとネットで調べてみた感じ、「黒檀とは三大唐木の一つで、高級な家具やら弦楽器やらに使われる。中でも青黒檀・本黒檀・真黒が最高級。英名:エボニー」等とあり、それでなんとなくわかった気になっていたのですが。
組木屋として作ったものを販売しようと考えだしてから、さらに細かいことまで調べようとすると、「うん?ん~???どういうこと?わけわからん。業界や各人毎にいっていることがバラバラやん?」みたいな。
調べれば調べるほど「黒檀・エボニーってなんだ?青黒檀・本黒檀・真黒ってなんだ?」の答えは、「明確な定義やルールは無い!」というのが結論になってしまいそうです。がしかし、ひとくくりに全部「黒檀」とするには、材の値段も質感も違いすぎるし、銘木で作品を制作販売するからには、少なくとも自分なりの理解は必要。
ということで、組木屋なりの理解で整理したものをまとめてみます。
まずこの写真は、組木屋で入手した黒檀・エボニーの仲間たちです。(ジリコテは全然違う種類ですが、おまけで。)(その後に入手した「黒檀・エボニー」の仲間たちの写真をいくつか追加しました )これだけでもけっこうな数ですが、黒檀・エボニーと呼ばれるものは、この何倍もあります。見た目にも結構違いがありますし、実際加工すると質感にも違いがあります。お値段も天と地ほど違ったりもします。
次に、組木屋なりの現状の理解を図示します。
実際の呼び名の使われ方(枠線の重なり方、区分)は、人・業界によって違い、もっともやもやっと、曖昧模糊としていますが、 なんとなくこんな感じです。
エボニーとは:カキノキ科カキノキ属の有用材の総称。ただし黒柿を除く。
黒檀とは:カキノキ科カキノキ属の有用材のうち黒いものの総称。ただし黒柿を除く。またカキノキ科以外でも黒くて優良な材は含むことがある。
ぐらいが、現状の定義かなと。
以下、いくつかややこしい部分を個別に解説します。
黒柿(クロガキ):じつは黒檀・エボニーと同じ、カキノキ科カキノキ属の仲間なのですが、この黒柿氏が、黒檀・エボニーを定義しづらくしている主犯格ではないか、と思っています。
まず、黒柿という樹種があるわけではなく、柿の木の中で「切ってみたら黒かった」という材を黒柿と呼んでいるだけです。昔から日本で使われている木材の中で、黒いものが希少だったこともあり、高級材としてあつかわれてきました。その黒い模様の出かた次第で、お値段が大変なことになったりします。
昔から日本にあるものだから、唐の時代の黒檀とかの製品が入ってきたり、木材自体が輸入されるようになって(唐木と呼ばれるようになりました)からも、「コクタン?ワシを舶来ものと一緒にしないでおくれ。」といって、まったく別扱いとされてきました。英語でエボニーという言葉が入ってきても、「ワシのことは”Kurogaki”と呼びなされ。」といった感じ。普通の白い柿の木は、ホワイトエボニーと呼ばれたりもするのですが。
黒柿さんには、今の時代、そんな年代物の拘りは捨てていただいて、黒檀・エボニーの仲間だよ、と認めていただきたいと思います。
そこで組木屋では、黒柿の別名として”柿黒檀(カキコクタン)”という呼称を提案いたします。英名は、ブラック・カキ・エボニー、とかどうでしょう。
ジリコテ(別名:シャム柿):別名の”シャム柿”がややこしい。見た目が、黒柿の上物にありそうな模様にそっくりなため、木材業者さんが売りやすいように、シャム柿と呼びだしたのでしょうが。まず、柿じゃないし。(ムラサキ科カキバチシャノキ属という、ボコーテ(黄金檀)の仲間。)産地もシャム(タイの旧国名)と全然関係ない、中南米とかだし。
よって組木屋では、”シャム柿”という別名の廃止を提案いたします。ちゃんと”ジリコテ”の呼称で、正当に評価しましょう。
アフリカンブラックウッド(別名:アフリカ黒檀、グラナディラ):これまた、見た目が黒檀(本黒檀とか)とよく似ているため、”アフリカ黒檀”という別名がつけられてしまったようです(「カタカナでグラナディなんとかゆーても、お客さんにおぼえてもらえまへんわ」という昔の木材業者さんの声が聞こえてきそうです。)がしかし、まったく別種。
カキノキ科ではなく、マメ科ツルサイカチ属という分類で、紫檀・ローズウッドの仲間。「紫檀・ローズウッド」というのもまた、曖昧でややこしい呼称なのですが、このアフリカンブラックウッドは、正統派ローズウッドと呼んでよい種。黒檀のばったもんみたいに扱うのは、大変失礼にあたるかと思います。
そこで組木屋では、”アフリカ黒檀”という別名の廃止を訴えるとともに、”黒紫檀”もしくは”アフリカンブラックローズウッド(略してブラックローズ)”という呼称を提案いたします。
以上、3種の別名を整理することにより、黒檀・エボニーの定義は、飛躍的にすっきり改善されると思うのですが、いかがでしょう?
続いて、黒檀のなかでも最上級品とされる「青黒檀」「本黒檀」「真黒」の複雑怪奇な分類について、自論を展開しましょう、
かと思っていましたが、長くなってきたのでその話はまたいつか。